二十四節気の12節目である大暑は、その字の表す通り、1年のうちで最も暑さの厳しい時期、梅雨が終わって晴れた日が続いて、気温がうなぎ上りに上昇していく頃のことなのです。2023年の大暑は7月23日から始まりますが、今年は早い時期から気温の高い日が続きましたね。
暑い日が続くと食べたくなるのが、アイスクリームやかき氷といった、冷たい氷菓。ウェザーニュースが2022年に行った「アイスクリームとかき氷のどちらが好きか」という調査によると、その時の気温によって食べたいと思う割合は変化するらしく、25℃未満ではアイスクリームを食べたい割合が9割前後でしたが、気温が上がるほど、かき氷を欲する割合が増加していくそうです。かき氷を食べたい割合は30℃になると32%、そして34℃に達すると52%と過半数を超えて逆転したといいます。
気温が35℃を上回ると、猛暑日と呼ばれるようになるのですが、この呼称は2007年から導入されたものです。それはこの年に気温が35℃を上回る日が続出し、40℃前後となるほどの特に暑い日も頻発したことから、気象庁はこの年の予報用語の改正時に「猛暑日」と「熱中症」の暑さに関する2語を新たに追加したのです。また、2007年にはそれまでの日本の最高気温も更新されています。更新されるまでの最高気温は、山形市で1933年の7月25日に観測された40.8℃でした。
そして、この日7月25日は「かき氷の日」でもあります。制定したのは日本かき氷協会。7月25日はかき氷の別名である夏氷、「な(7)つ(2)ご(5)おり」の語呂合わせであり、2007年まで74年間も続いた日本最高気温記録にちなんで、かき氷を食べるのにふさわしい日ということで選ばれたそうです。日本かき氷協会は、日本の食文化である「かき氷」の伝統を守り、氷業界・かき氷飲食店舗などのかき氷に関わる業種とのつながりを深めることで、かき氷の素晴らしさを広め、発展させることを目的としている団体です。
やっとここから、今回の原稿のお題「かき氷は、和菓子なんだろうか? それとも洋菓子なんだろうか?」という話になります。宇治金時とか、練乳あずきとか聞くと、和っぽいなと思ったりもしますが、ブルーハワイのシロップがかかったものや、氷自体にマンゴーの風味がついた雪花冰(シュエファービン)なんかだと、洋菓子っぽい感じもしますし、呼び方もフラッペとか、シェイブド・アイスとかがふさわしいような気がします。
日本かき氷協会の言葉にも“日本の食文化である「かき氷」”とあるように、かき氷は平安時代に清少納言が書いた随筆『枕草子』中にも登場している歴史のある食べ物のようです。「あてなるもの(上品なもの)」と称する段に、金属製の器に入った削り氷(けづりひ)に、あまづら(甘い蔓の樹液を煮詰めて作ったもの)を掛けて食べるのが良いと書かれています。製氷機や冷蔵庫などなかった時代、夏の盛りに氷を口にできるのは、一部の貴族階級の人たちだけだったでしょう。実にぜいたくな振る舞いだったのです。
それから時代はぐんと下って江戸時代になっても、夏に氷を口にできたのは、将軍家や大名など、ごく一部の人たち。巷間に氷が出回るようになったのは、江戸時代の後期あたりからです。その頃主流だったのは、遠くアメリカから地球を半周してやって来る、ボストン氷でした。それが余りに高価だったことに目を付け、国内産の天然氷の製造・採取と販売の事業化を志したのが、中川嘉兵衛(なかがわかへえ)という人物です。
当初嘉兵衛は、富士山麓や諏訪湖から天然氷を運んだのですが、事業としては中々採算が取れませんでした。やがて北海道の五稜郭の外濠で生産した氷を舟で運ぶようになり、やっと国内産の氷が安定して手に入るようになったのです。この氷は函館氷と呼ばれ、この氷を使った「氷水(こおりすい)」は、砂糖水の中に一片の氷を浮かべたもので、好評を博していたようです。こうして氷は貴重品ながらもようやく庶民の手にも届くものとなったのです。
本格的なかき氷店ができたのは、明治2(1869)年6月のことです。横浜馬車道通に、町田房蔵(まちだふさぞう)が「氷水店」を開き、砕いた氷に蜜をかけた「氷水」や「あいすくりん(アイスクリーム)」を販売しました。あいすくりんはまだまだ非常に高価で、お客は一部の外国人のみだったと言います。房蔵の氷水店でも函館氷を使っていたそうです。
やがて、明治時代に入って、天然氷ではなく機械で製氷された氷が出回るようになると、かき氷が庶民の間にも広がっていきました。明治20(1887)年には、村上半三郎が回転式の氷削機(ひょうさくき)を発明し、かき氷がますます身近になっていきます。昭和に入ると、家庭用のかき氷器も登場し、手軽にかき氷を作れるようになりました。
現在、私たちは実にいろんな種類のかき氷を楽しむことができます。氷一つを取ってみても、天然氷がいいとか、削るときの氷の表面は少し溶けかけが最適とか、それはそれは細かいこだわりがある職人技の世界です。氷の上に掛けられるシロップにも、さまざまなアイデアを凝らしたり、トッピングにも工夫したり、かき氷の専門店も数多く存在しています。日本でこれほど独創的な発展を遂げているスイーツなら、自信を持って“和菓子”と言っていい気がします。
今年の夏も、暑さが厳しいようです。裏返せば、それはかき氷がおいしいということ。
熱中症に注意しながら、日本のかき氷文化を堪能していきましょう。
文:oriori編集部