1.「鶴屋𠮷信 TOKYO MISE」とは?
享和3年(1803年)に創業した「鶴屋𠮷信」。享和とは一体どんな時代だったのか?遡ること200年以上前、江戸幕府・第11代征夷大将軍の徳川家斉が政権を握っていた時代です。十辺舎一九が東海道中膝栗毛の初刷りを開始した翌年が「鶴屋𠮷信」創業にあたり、その時代背景だけでも、相当昔のこと、と想像いただけますでしょうか?つまりは老舗中の老舗なわけです。
京都から東京に進出したのは、昭和35年。かつて大江戸の賑いの象徴であった“魚河岸”ゆかりの地、日本橋室町に「鶴屋𠮷信 東京店」を開設し、「COREDO室町3」がオープンするタイミングで店舗を移転、現在の「鶴屋𠮷信 TOKYO MISE」が誕生したのです。
店内には、日本橋にお店があったオープン時から外観に掲げられていた看板が飾られています。雨ニモマケズ…風ニモマケズ…時代を駆け抜けた年季ある看板に、まずは想いを馳せて。
2.カウンター越しに職人がつくる上生菓子を堪能
「COREDO室町3」入口に位置する「鶴屋𠮷信 TOKYO MISE」は、ガラス越しに街を行き交う人からも店内の雰囲気を伺い知ることができ、道から直接店舗への入店も可能です。そして、「TOKYO MISE」の目玉は、「菓遊茶屋」と名付けられたこのカウンター7席です。
カウンターを挟み、目の前に立つのは長年経験を積んだ菓子職人。目の前で上生菓子を作り、お抹茶と一緒に提供するライブ感が他にはない、と人気です。
さてここからは、このカウンター席に座った気分で、『上生菓子とお抹茶のセット』をいただくまでの流れを一緒に体感してみましょう。
まずは、カウンター上に並ぶ、4つの上生菓子の説明を受けます。自分が食べたいものを選び、職人さんにお伝えして。
お菓子は季節に合わせて月2回変わります。クリスマス、正月、バレンタインなどの歳時記によって、季節の旬食材によって、例えば桜の花を模したお菓子であれば、花が咲く前から散る前まで…という風に季節の移ろいに合わせて変化していきます。四季折々のズラリ並ぶ上生菓子のビジュアルを目で愛でることもお忘れなく。
さて、ここからはノンストップですので、瞬きせず、職人さんの手元にご注目を!
“こなし”と呼ばれる練り切りより、くちどけのよい材料を使い、滑らかな手つきであっという間に成型が終えると、次に手に取ったのは、返しべら。華麗に切り込みを入れていきます。すると、あら不思議。切り込みからピンク色がうっすら透けて見えてきました。何色かのこなしを重ねて成型しているため、細工を施すとなかの色が透けて見えるのも、計算のうち。職人の技の見せどころです。
最後にへたとなる部分は金網を使って一気に押し出す。
お箸で取り上げたら、ちょこんと先程のお菓子にのせて完成です。
絶妙なタイミングで登場する点てたお抹茶と一緒に、いざ!実食。
まずは一口。
その一口が、まさに驚きにあふれていました…。
『「くちどけの良さ」が特徴の“こなし”を使用』と伺い、想像していた何倍ものくちどけの良さでした。水分を含んでるかのような、口のなかで潤いを感じる上生菓子です。上品な甘さと、ほんのり苦味と渋みを感じるお抹茶とのハーモニーもまた抜群。
出来たてだからこそ味わえる“美味しさ”が、ここにはありました。
また、職人さんとの対話を楽しみつついただけるのも、このカウンター席の醍醐味です。質問があれば、お声がけしてみてください。今まで知らなかった和菓子の世界に触れられるきっかけになるかもしれません。
3.新旧が共存する手土産
お菓子とお抹茶を楽しんだら、併設(すぐ横)の売店で手土産をチェックしましょう。勝手ながら、「鶴屋𠮷信 TOKYO MISE」の手土産おすすめ3選をご紹介します。
何といっても一番人気はこちら。
IROMONAKA(栗餡入り)2,808円(税込)
マカロンを彷彿とさせる、カラフルな最中に、3種の餡(小倉餡、抹茶餡、季節の餡※取材時は栗餡)の3種が詰め合わせられたセット。一見、洋菓子の詰め合わせが入っているかのような、ハイセンスなパッケージも人気の秘密です。
「どの味にする~?」なんて言いながら、小瓶に詰まった餡を付属のへらで最中に詰める作業も、食べるまでのワクワク感を煽ります。濃厚な餡にサクッと軽やかな食感。小倉×抹茶など…餡ミックスという食べ方もおすすめです。色々な楽しみ方ができる大人気商品です。
奥:琥珀糖(1,080円)、中央:有平糖(540円)、手前:琥珀糖(1,296円)※すべて税込
こちらはIRODORIシリーズ。パステルのような形をしたパステルカラーの「琥珀糖」。異なるカラーに、ジャスミン、カモミール、ローズ、ミント、ラベンダーの風味がついており、シャリッとした砂糖の食感にふわっと風味が口の中で広がります。手前、紅葉のように、季節モチーフの「琥珀糖」もあります。
「有平糖」は、ポルトガルから伝来したお菓子。京の名所をイメージしたという図柄5種のスティック状タイプ。小ぶりなサイズ感でちょっとしたお返しにもおすすめ。
最後は「鶴屋𠮷信」の歴史と共に歩んできたとも言える「柚餅」
柚餅:540円~(※パッケージや個数によって価格が異なる)
柚子の香りをこめた求肥を、極上の品質を誇る阿波の和三盆でまぶした「つまみ菓子」。ぷにゅっとした弾力のある食感に、噛みしめるごとに柚子が存在感を示します。明治初年に誕生したこのお菓子、昭和天皇によるお買い上げの栄を賜るなど、長年「鶴屋𠮷信」を支えてきた銘菓。
何百年と紡がれてきたお菓子がある一方で、和菓子があまり身近ではない若い世代にも目が留まるビジュアルと、斬新なアイディアで「食べてみたい!買いたい!」と思わせる和菓子を生み出し続けています。
それは、「鶴屋𠮷信」に息づく飽くなき探求心ゆえ、そして時代を読み解き、その先を見据える思考と確かなる技術があるからに他なりません。何百年も続いてきたその精神は並大抵ではないのです。そして、その時、その場でしか味わえない、極上の味も忘れずにご堪能ください。
取材・文:田中恵子/撮影:土肥さやか