逗子・葉山・横須賀

菓道家「三堀 純一」が和菓子に新たなムーブメントを起こすまで【職人特集vol.1 前編《オモテ》】

都野 雅子

3.「おたく」がブランドをつくる。三堀流・教育論

—— 大事なのはそのブランドを広めていく役割を持つおたくなんですね。

その物事に対してのストイックな人の興味を高める。「おたく」っていう評論家をつくるということなんですよ。これ知ってる?っていう質問に対してステイタスを感じる人がそれをブランディングしていくんですよ。

でもこれっていきなりマスの大きなものを求めるものじゃないんですよね。限られた人ですから、おたくが興味を持つくらいもっと高みを目指さないといけない。

理想型は寿司のカルチャーですね。今はベトナムでもここは築地か?というレベルの寿司が食べられる。

なぜ世界にそこまでの市民権を得るまでになっていたかというと、間違いなくきっかけはカリフォルニアロールです。

「寿司にマヨネーズ」って寿司屋からしたら、あんなの寿司じゃねえって初めはなりますよね?でもそれが蔓延したことによって世の中の人が「お前、日本の寿司知らないの?寿司ってこういうものだよ」っていう「おたく」を生み出したんです。

和菓子アーティスト達がやっていることも「和菓子おたく」をつくるんです。なぜなら彼ら自身が「和菓子おたく」ですから。おたくだからこそ自分の技術が足りないって勉強するんです。

そうするとどんどん和菓子の教養がついてくるんです。それが本物かわかるように腕も上がってくるんですよ。

—— そうなると和菓子業界全体が盛り上がってくるんじゃないかと期待しちゃいますね。

これから過渡期にはいってくると思うんですよね。最近になって、ようやく「うちの羊羹は1本5000円です」とか、このお菓子は他と違うよっていうものが出てきた。

興味がない人だったら、たかが羊羹で終わっちゃうけど、おたくだったら、ここの小豆はどこどこ産で、砂糖なんてこれ使ってるって。うんちくで語れる人達が出てくるとそこで1本5000円の羊羹に価値が出てくる。

—— 確かに興味を持ってくれるような奥深さとか難しさとか、簡単には攻略できないっていうのに魅力を感じますね。

だからまず、目指すべき「てっぺん」を作ろうと思ったんです。そのお手本としたのが茶道。茶道も世界のカルチャーですから。

高野山茶道師「和真庵」の梅原宗直先生にいろいろご指導して頂き、心得だったり心配りだったり所作を教わりながら、茶を菓子に置き換えお点前をする。

三堀純一

—— 「道」がつくと教えとか悟りとか教育という言葉がしっくりします。三堀さんは菓道を通じて教育される場をつくろうとしているのでしょうか。

お腹を満たすために和菓子を食べているのではなく、枯渇した心に潤いを与えるための時間と場所と人を用意します。嗜みの文化としての菓道。その魅力を知るには教養を高めることが必要ですよね。

私の中で教育っていうのは2通りあるって思っているんですよ。

1つは向き合って寄り添って手を差し伸べる教育。もう1つが背中をみせて遠ざかってそれを目指して歩く教育、自立を促す教育。

和菓子をブランディングするなら、それはどちらかっていうと背を向ける教育になる。

—— それはどうしてですか?

認知度を上げて売っていくのも1つの手ですが、それは暖簾の作り方。孤高のブランドを目指すなら背を向ける教育をしないといけないと思ったんですよ。

—— 憧れのブランドにするには孤高の存在であることが必要だと。1人で作り上げるのってすごいパワーがいりますよね?

いや、1人でやってないですよ。この袴も着物も梅原先生が「こういうの作ったから着てきてみてよ!?」ってくれたんです。で、上は上野の着物屋さんが三堀さんのデザイン作りたいって言ってくれて。いろんな方面で応援してくれる人がいる。

お前がやりたいことはざっくり見えているけれど形にするなら、こうしたら??ああしたら?という助言を入れて選択していたらこうなった。初めからここまでのビジョンはなかったです。

—— 三堀さんの自身が「三堀純一」というブランドということですね。その存在でありつづけるのは大変そうですね。

めちゃ窮屈です(笑)。

—— 三堀さんのスタイルは般若のマスクもそうですし、練りきりをつくる所作もパフォーマンスとして確立しているので、「三堀純一」としてのブランドがわかりやすいですが、昔からの和菓子業界とは一線を画していますよね。そこで苦労されたことはありますか?

ここ1、2年で和菓子屋さんのフォローが増えましたけど業界の人達って私が駆け出しの頃は皆、アンチでしたよ。

最近流れが変わってきた感じがします。自分が健在のうちに、これからの5年でケーキ屋さんがパティスリーに変わったような流れを和菓子でみたいなと思いますね。

—— 和菓子屋さん、で一括りにされるのではなくてもっと個が見える誰々が作った和菓子が買える店、ですね。

個性のある和菓子アーティストさんが活躍されてくと思います。その指針の一つをつくったのがwagashiasobiの稲葉さん。

「若手の職人さんがどうやって独立してブランディングしていくか?」っていうのをみせた。ドライフルーツの羊羹とハーブの落雁だけでやるっていう。大阪の森のおはぎさんも同じですね。特化した専門店にシフトしていくと思います。