二十四節気の24番目、大寒を過ぎると、寒さが一番厳しくなるといわれています。確かに、つい先日も10年に一度と言われるほどの寒気が列島を覆い、全国の交通網が大きく混乱しました。その大寒の最終日にあたるのが、節分です。
節分はその字の通り、春夏秋冬それぞれの季節の分かれ目を表す日のことです。従って年に4回あるのですが、近年では春の節分のみがクローズアップされてきました。それは、旧暦では立春こそが、一年の始まりだと考えられてきたからです。つまり、春の節分はいわば大晦日、この一年の厄を払う、大事な日と考えられてきたのです。
その厄払いの風習が、「鬼は外、福は内」と掛け声をかけながら福豆をまく豆まきなのです。その後、福豆を数え歳の数だけ食べたり、関西の方では恵方巻きを食べたりしますが、その他にも邪気除けのため、柊鰯(ひいらぎいわし)を玄関に飾るという風習もあります。イワシを焼いて食べ、においとトゲで鬼を寄せ付けないように、残った頭と骨をヒイラギの枝先に刺して玄関先に置くのです。
節分に食べるのは炒った大豆だけでなく、豆まきに題をとったさまざまな和菓子もあります。鬼やお多福をかたどった練り切りや、大きな豆の形をしたお饅頭、最近では恵方巻を模しただんごや、ロールケーキなども登場しています。
そして、一日明けた立春は暦の上での春の幕開け。この日には「立春生菓子」といって、朝に作った生菓子をその日のうちに食べる縁起物の習慣があります。また、立春大吉や、立春大福という名称で、この時期だけのお菓子を作る和菓子屋さんも見かけます。この時に食べるのは、春を感じられる梅の意匠の上生菓子やうぐいす餅、桜餅などが人気です。
梅は春一番に開花することから、「百花の魁」として古来より愛玩されてきました。豊かな生活や生命力の象徴として縁起物とされる梅の花は生菓子の主題としても人気で、雪との取り合わせもおもむきがあり、さまざまな製法、意匠で作られてきました。
うぐいす餅は、求肥であんこを包み、楕円形に整えた後で、両端を引っ張ってうぐいすの形にしたもので、最後に青大豆で作ったきな粉を振りかけたシンプルなお菓子です。若草色に色づいた姿には、そこはかとない愛らしさが漂います。このうぐいす餅は大和郡山の城主であった豊臣秀長が、兄の秀吉を茶会に招いた際に、城下の菓匠に「何か珍しいお菓子を作れ」と命じて、御用菓子司であった菊屋治兵衛が創出したものが原型とされています。これにうぐいす餅と名付けたのは秀吉だと言われています。
そして桜餅。桜餅には、小麦粉と水を混ぜた生地をクレープのように焼いて作る関東風と道明寺粉を使った関西風が存在します。関西の桜餅がその材料から道明寺と呼ばれるのに対して、関東風の桜餅はそのお菓子が生まれた場所から長命寺とも呼ばれています。両者に共通しているのは、食紅で餅が薄いピンクに着色されていることと、塩漬けの桜の葉っぱが巻かれていること。桜の葉に含まれるクマリンに由来する天然の芳香成分の働きで、甘い香りがほんのりと餅についています。これは葉っぱを剥がしても残っているので長明寺桜餅の製造者さんは、食感を考え、桜の葉は剥がしてお召し上がりくださいと勧めています。まあ、食べても問題はないので、そこはお好みでお食べください。
ちなみに桜餅に使われている葉っぱは、有名なソメイヨシノではなく、芳香成分が多く含まれ、葉っぱも大きなオオシマザクラのものが使われています。葉っぱだけでなく、花も大輪で、花弁は白く、枝いっぱいに花を付けた姿は見栄えも良いため、公園などにもよく植樹されています。春になって花が咲いたら、探してみてください。ソメイヨシノのピンクの花とはすぐに区別がつくでしょう。
春の和菓子というと、色や香りが楽しめるものが多いような気がします。吹く風が温んできたら、ちょっと近所の和菓子屋さんを覗いてみましょうか。
文:oriori編集部