今年は例年になく暖かい日が続いていましたが、立冬を過ぎてようやく寒さも平年並みになってきました。そうなってくると恋しくなるのが、からだを温めてくれるスイーツ。真っ先に思い浮かぶのが、おしることぜんざいです。似ているようでちょっと違うこの二品。その呼び方は、地域や作り方によって異なっているようです。共通しているのは、原材料に小豆を使っていることと、お餅か白玉団子が入っていること。
関東では、一般的に汁気のあるものを「おしるこ」と呼び、粒あんで作ったものを素朴な「田舎汁粉」、こしあんで作ったものを上品な「御膳汁粉」と呼んでいました。そして汁気の少ない、お餅にあんこを掛けたようなものが「ぜんざい」という風に区別されていますが、関西や九州では、汁気があって小豆の原料にこしあんが使われているものは「おしるこ」、汁気が多くて粒あんが使われているものは「ぜんざい」という風に区別しています。汁気のない関東の「ぜんざい」のようなものは、関西では「亀山」と呼ばれています。
どうして「亀山」になったかというのには諸説があり、小豆の産地、丹波の地名「亀山」からつけられたとか、岐阜県出身の『亀山某』が、明治後半に大阪で亀山屋という餅店を開き、お餅に粒あんを掛けたものを売り出したところ、評判となって以来「亀山」と呼ばれるようになったという説だとか、餅の入った器にこんもりと積まれた小豆が、亀の甲羅のように見えるからなどがあります。同様のものを「金時」と呼ぶ地域もあるようで、かき氷にのせる「金時」と同じく、甘く煮た小豆のことを金時と呼んだことから来ているようです。小豆と金時豆は違う豆なのに、紛らわしいですね。
ちなみに、沖縄では「ぜんざい」といえば、黒糖や砂糖で甘く煮た金時豆にかき氷を乗せた冷たいお菓子を指すことが一般的です。当然ながら食べるのは冬ではなく、夏の味覚。白玉も添えられていて、腹持ちも良いようです。一般的なおしるこは沖縄では「ホットぜんざい」と呼ばれ、こちらは冬に食べるスイーツです。
また、北海道のように「明確に区別されていない」という場所もあるので、地域の特色がかなり現れる食べものであるといえます。
ここでぜんざいの起源を調べてみると、旧暦10月の神無月(かんなづき)に出雲大社で行われる神在祭(かみありさい)に起因するようです。そこで振る舞われるのが、煮た小豆にお餅を入れて食べる神在餅(じんざいもち)。いつしか「じんざい」が訛って「ぜんざい」となって京都に伝わったと江戸時代の書物に書かれています。このことから、出雲をぜんざいの発祥の地とする出雲ぜんざい学会は、10月31日を「ぜんざいの日」に制定しました。
神在祭の日程に近くて、「1031(ぜんざい)」の語呂合わせになっているんですね。
ぜんざいの起源にはもう一説があり、有名なお坊さんの一休宗純に小豆の汁にお餅を入れたものを出したところ、「善(よ)き哉(かな)、この汁」と言ったことから「善哉(ぜんざい)」と言われるようになったという話も伝わっています。一休さんは室町時代の人です。こちらの言い伝えも歴史がありますが、さて、真相はどちらなのでしょうか?
もう一方のおしるこの起源ですが、こちらもその来歴を古い文献で確認することができます。江戸時代初期に書かれた『料理物語』にでてくる「すすり団子」がそのルーツだと言われています。その調理法は、もち米の粉とうるち米の粉を4対6の割合で混ぜて団子を作り、小豆で煮込んで塩味をつけ、砂糖をまぶしたものだそう。砂糖は貴重品だった、ほんのわずかしか使われず、主な味付けは塩味が勝った酒の肴だったようです。現在のように甘い味付けになったのは、砂糖が多く出回るようになった江戸時代の後期になってからとのこと。このすすり団子があんこの汁の中に実として餅を入れる「餡汁子餅(あんしるこもち)」となり、「汁子」が転じて「汁粉」、「おしるこ」となったといわれています。
面白いのは、おしるこには手軽なインスタント食品が存在していて、多くの和菓子店から「懐中しるこ」と名付けられた商品が出ていることです。最中に似た形態をしていて薄い餅皮に入った乾燥あんこやあられなどの浮き実を器に割り入れ、熱湯を注ぐだけでおいしいおしるこが味わえます。これは花見や紅葉狩りなどの旅先や、夏の暑い時期などに手軽におしるこが食べられるように考案されたもののようです。
また、「おしるこの日」というのは存在しませんが、1月11日の鏡開きの日には、お供えの鏡餅を砕いて、無病息災を願っておしるこなどにして食べる風習があります。
以上、温かい和菓子、ぜんざいとおしるこについていろいろと調べてみました。これから一層寒さが厳しくなりますが、暖かくしてお過ごしください。
文:oriori編集部