
3月10日は「お砂糖の日」です。「さ(3)とう(10)」の語呂合わせから来ています。制定したのは砂糖についての啓発活動を目的とした業界団体、「お砂糖“真”時代推進協議会」。協議会自体は平成29年に活動を終了していますが、現在は「シュガーチャージ推進協議会」という団体が砂糖についての啓発活動を引き継いでいます。
砂糖は和菓子の制作には欠かせない素材であり、中でも高級といわれる国産砂糖「和三盆糖」はさまざまな和菓子に使われています。和三盆糖自体が干菓子として茶席で用いられることもあります。菓名もそのものズバリの「和三盆」。和三盆糖を菓子木型に押し込めてつくった「打ちもの」や、球状に押し固めた和三盆を和紙に包んで羽根つきの羽根に似せたものなどがその代表格です。和三盆は、よく落雁と混同されることがありますが、落雁は米粉や豆の粉といったでんぷん質の粉に、水飴や砂糖を混ぜて型に押し固めて乾燥させたものです。「和三盆」は和三盆糖100パーセント。口溶けからして違うので、一度食べ比べてみてください。
和三盆糖が高級といわれる理由はその製法にあって、通常の上白糖などと比べると手間が掛かっています。和三盆糖は「三盆白(さんぼんじろ)」とも呼ばれていて、両者に共通する「三盆」という言葉は、諸説ありますが「お盆の上で砂糖を三度研ぐ(とぐ)」という独自の製法からきているとされています。
「研ぎ」とは糖蜜を含んだ砂糖の結晶を台の上で、手でこねてほぐす作業で、その後で「押し舟」という機械に掛けて糖蜜を抜いていく「分蜜」という作業を行ないます。「研ぎ」をすることで結晶がほぐれて丸くなり、糖蜜が流れ落ちて雑味が減るのだそうです。そうして「押し舟」~「研ぎ」の作業を数回繰り返すことで、より白い砂糖が得られます。白くなった和三盆糖は、乾燥させてふるいに掛けられ、より細かく擦り合わされていきます。こうして雪のような口溶けの和三盆糖が完成します。
砂糖は製造法で分類すると、分蜜糖(精製糖、粗糖など)と含蜜糖(黒砂糖)に分けられ、世界の大部分で生産されている砂糖は分蜜糖に属しています。伝統的な方法によってつくられる和三盆糖は、糖蜜を抜ききってはいない、どちらにも属さない大変珍しい砂糖になるそうです。
和三盆糖の原料となるのは亜熱帯から温帯で育つ「竹糖」とか「ほそきび」と呼ばれるさとうきびです。ブラジルやインドなどの熱帯地方で栽培されているさとうきびとは異なる品種で、背が低くて、太さも細いものです。もともと奄美に中国から伝わっていたのが、そういう品種だったのですが、奄美と四国では気候も土壌も異なり、生育が難しい上に、1本あたりの絞り汁も少なく糖度も低いため、そこから作られる和三盆糖は大変希少なものとなります。
和三盆は、現在は徳島県と香川県の一部でのみ栽培、製造されていて、それぞれ阿波和三盆、讃岐和三盆と呼ばれています。両者が作られるようになったのは、江戸時代のほぼ同時期のことで、8代将軍の徳川吉宗が製糖業を奨励する中から生まれたといわれています。作られているところは阿讃山地の南北地域で、近接しているにもかかわらず、それぞれの和三盆誕生の歴史に登場する人物には違いがあり、伝承している物語も異なっています。それでも、どちらも「和三盆」なのです。また、同じ地域に属する製糖所であっても、細かい製法や手順が異なっていて、その結果、作られる和三盆糖にも微妙な差異が存在することになります。共通しているのは「やさしい甘さ」。くどくなく、すっと溶けるような食感が持ち味で、和菓子だけでなく数々の料理にもよく使われる、日本の味といえるでしょう。
文:oriori編集部