鎌倉

【麩帆】柔らかく瑞々しい麩まんじゅうが美味 火を通さずに食べられる生麩も提供する

山本千晶

1.麩まんじゅうは瑞々しさが格別

江ノ電、由比ヶ浜駅から徒歩3分のところに、大きなのれん看板と小さな受け渡し窓口だけのひっそりとした佇まいのお店が現れます。

麩帆

鎌倉駅からも由比ヶ浜通りをのんびりお散歩していると、あっという間にたどり着いてしまう場所。

関東では珍しい、生麩と麩まんじゅうのお店「麩帆」です。

生麩とは、元々精進料理として、肉食を禁じられていた僧侶たちに好まれていた食材。小麦粉と水を混ぜ合わせ、でん粉を取り除いて出来上がる“グルテン”が原料です。さらに、グルテンを熟成させ練って作られた生麩の生地であんを包んだものが“麩まんじゅう”というわけです。

「麩帆」でまず食べたいのが、こちらの麩まんじゅう。

麩まんじゅう

この凛とした佇まいに、惚れ惚れしてしまいます。
ツヤツヤの笹の葉の包みを開けてみると……

ふまんじゅう
ふまんじゅう 1個180円(税込)

したたり落ちるくらいの水気が瑞々しい、柔らかな麩まんじゅうが現れます。
愛らしい少しいびつな形も、手作りならではの魅力。

ふまんじゅう

割ってみると、こしあんが、こちらも水気を帯びて包まれていて、普通のおまんじゅうとは違う装いです。

いざ口に入れると、たっぷり水分を含んだ生麩の生地がとても柔らかい! それでいて程よい弾力があり、滑らかなこしあんとのバランスが抜群なのです。つるりと水気したたる生地に合わせたあんは、北海道の大納言小豆を使用。甘さや水分量を安定させるため、一晩寝かせたあんは実に滑らか。生麩との一体感が生まれるように作られています。

そして何より、麩まんじゅうは瑞々しさが一番のポイントだといいます。グルテンを熟成させるのは、おかみさん曰く「麩まんじゅうの室」。環境を整えて、水分をたっぷり含んだ麩になるよう工夫しているのです。

また寝かせる時間も、より瑞々しく仕上がるように日々変えているそう。天気や湿度によっても細かく変わるので、「グルテンに自分たちがあわせていく」とおかみさんはおっしゃいます。

外観

麩まんじゅうは1個から販売されているので、鎌倉散歩の途中に買って食べ歩きするのにも最適。通りの中にひょこっと現れる小さな窓口で、「麩まんじゅう1つ」と気軽に頼める敷居の低さが、このお店の嬉しい特徴でもあります。

2.火を通さず食べられる生麩を提供

「麩帆」で味わえるもう1つの品が、生麩です。

先にお伝えしたとおり、生麩を作るには、原料は多くはありません。しかし使う材料や製法によって大きな違いが生まれるので、生のままでいただける生麩を提供する店は限られます。「麩帆」はその数少ないお店のひとつ。

普段あまりお目にかかることのできない、火を通さずに食べられる生麩を、おかみさんが見せてくださいました。

なまふ(左から あわ、黒ごま、白ごま、よもぎ)
なまふ(左から あわ、黒ごま、白ごま、よもぎ) 各1本580円(税込)

実際にいただくと、先ほどの麩まんじゅうの生地とは食感が驚くほど異なります。「麩帆」の生麩の特徴は、口に入れた瞬間に味わえるつるりとした舌触り。そして歯を入れると、跳ね返すようながっちりとしたコシがあり、しっかりと感じられる弾力です。他の食べ物にはない独特の感触と風味なのです。

瑞々しさが第一の特徴である麩まんじゅうと、歯ごたえのある生麩。おかみさんに伺ってみると、それぞれ作り方が違うのだとか。言われて納得です。

生麩の味のセレクトはお好みで。シンプルに生麩を味わいたいときは『あわ(粟)』を、『黒ごま』はプチプチとした食感と鼻に抜ける香ばしさがあり、しっとりとしたごまの味わいが豊かな『白ごま』や、少し苦味がクセになる『よもぎ』も美味です。

なまふいろいろ(冷凍)
なまふいろいろ(冷凍) 1,400円(税込)

色々な味を楽しみたいなら、4種類の生麩(小サイズ)と田楽用のお味噌、きな粉、黒蜜がまとまったボックスセットもオススメです。

「麩帆」の生麩を食べるなら、まずは生で。わさびや生姜を添えて、お醤油でいただいてみてください。デザートとしても楽しめるので、セット同様、きな粉や黒蜜などと合わせてもおいしいですよ。もちろん、田楽やてんぷら、煮物や鍋の具材…と、火を通す食べ方も楽しめます。

3.「絶滅危惧種」を守り、育てていきたい

生麩といえば関西のイメージを持つ方も多いかと思いますが、麩帆のご主人が生麩に出会ったのも京都。大学時代に生麩に魅せられたご主人は、決まっていた就職先を断って、生麩作りの修行を始めます。

その後鎌倉へ移り、生麩を料理店に卸すことからスタート。そして28年前に開業し、25年前に今の形態でお店をオープン。今では、ダライ・ラマ14世が来日したときにお寺から注文が入るほど、知る人ぞ知る名店となっています。

「麩帆」の商品への愛情は、こんなところにも表れています。

生麩ボックスセット

生麩ボックスセットのパッケージに描かれているのは、美大出身のおかみさんによる僧侶のイラスト。「Fuhan」のロゴも、今っぽいセンスと手書きによる温もりを感じさせます。生麩をより多くの人が身近に感じられるようにという、おかみさんの思いが詰まっています。

麩まんじゅうを目当てに、小さい子どもがお店に訪れることもあるのだとか。無添加の麩まんじゅうは、幼い子でも安心して食べられるピュアな美味しさを秘めています。

職人であるご主人と共に歩んで来られたおかみさんは、商品について語る時、常に笑顔を絶やしませんでした。愛情を持って麩と接している彼女は、老若男女に好まれるポテンシャルのある生麩のことを、ユニークに「絶滅危惧種」と表現します。

上質な生麩を食べたことのない人も多く、手に入る場所も限られているのが現状です。品質をキープしつつも『より多くの人に「絶滅危惧種」である上質な生麩を食べてもらい、裾野を広げたい』と、おかみさんは一段と朗らかな笑顔で語ってくださいました。

取材・文:山本千晶/撮影:高山一平