「神楽坂の毘沙門さま」
そう親しまれている善国寺の真向かいにあるのが「毘沙門せんべい 福屋」。有名な「勘三郎せんべい」があるお店です。
今回は福屋で販売している、歌舞伎役者の名を持つおせんべいをご紹介します。
1.焦げがうまいと評判の「勘三郎せんべい」
勘三郎せんべい 8枚入756円(税込)、15枚入1,296円(税込)
中村勘三郎丈。歌舞伎に疎い人であってもその名は耳にしたことがあるほどの有名な歌舞伎役者です。
神楽坂は花街で置屋があり花柳界と深い縁があることから、勘三郎も福屋に訪れることが多かったそう。ある時、店頭で焼いているせんべいの香ばしい香りに誘われて、勘三郎さんが福屋の暖簾をくぐったのが「勘三郎せんべい」の始まりでした。
その時のやり取りは、福屋のHPにも福屋初代店主が記した洒脱(しゃだつ)な文章となって楽しませてくれます。
「もっと焼け、もっと焦がすんだ」
「先生、これではニガくて食えませんよ。うちの毘沙門せんべいはよそよりずっと丁寧に焼いて焦がしてあるんですからね」
「おれの特別注文なんだから文句言わずにもっと焦がせばいいじゃないか」
「驚いたね、先生これじゃ烏の勘三郎せんべいだ。ウァハ……」
右が勘三郎せんべい。確かに黒いです。
「勘三郎先生は、魚でも何でも焦げたのがお好きだったのですよ。」
そう話してくれたのが、2代目である現店主・福井清一郎さん。
先生の好みのせんべいを、いつ来てもいいようにたっぷり大きな「地球びん」に入れていたところ、それが欲しいと人気になり、本人の了承を得て晴れて「勘三郎せんべい」の名をいただくことになりました。
現在は当時と違い、四角い瓶の中に勘三郎せんべいがあります。「丸いし、デカいし、場所取るからね!」とその理由も教えてくれました。
気になるその味は、どちらかというと薄めでザクザクとした小気味よい歯ごたえ。
割ってみると断面にもしっかり焼きが入って、確かに苦味を感じます。思えば焦げたおせんべいを食べたことがなかったのでこの味はお初。「ニガくて食えませんよ‥」と言った気持ちがよくわかります。ですが、食べられる苦さ、その塩梅が絶妙。
口の中からなくなると、なぜかもう一口食べたくなる不思議な後引き感。なぜ苦いのにわざわざ食べるのかといったら、まるでサンマの内臓や、サザエの肝をもう一度食べたくなってしまうような、そんな感覚かもしれません。
2.しっかり重い!天日干しの「毘沙門せんべい」
毘沙門せんべい むしろ 1枚入324円(税込)、10枚入3,240円(税込)
福屋のもう1つの名物は、こちらの「毘沙門せんべい」。
持ってみると1枚が重い。天日干しだというこのせんべいは、ギリギリの大きさの厚さに挑戦しているため、厚みは1センチにもなるほどです。
天候によって天日干しの進みが変わってくるため、長雨が続いた今年はなかなか大変だったといいます。以前は店頭で焼いていたせんべいも、時代の流れで現在は別の場所で焼いています。
厚さも重さも存在感バッチリな毘沙門せんべいは、まずは固い!それこそ奥歯でバリバリと噛み砕く必要があります。けれど噛めば噛むほど甘く変わってゆくせんべいの米の味。昔のおせんべいって固かったな、と思い出す味でもあります。
3.名物はせんべいだけじゃない!こだわり抜かれた福屋の店内
福屋の店内は明るくガラス戸なので、通りから中がよく見えます。福屋が誕生したのは昭和23年。
店内にはせんべいの他にも、中村屋に縁のあるものが飾られていたり、キャッシュトレーが木彫りの家紋だったり、旧大久保邸から頂いたという屋久杉の天井だったりと興味深いものがたくさんあります。
屋久杉の天井
木彫りの家紋
中村屋に縁のあるものの展示
中でもカウンターのショーケースの中に鎮座してあったのは、十七世 中村勘三郎丈と十八世 中村勘三郎丈の色紙。
親子2代の色紙の下には、こちらも十八世 中村勘三郎丈が、五世 中村勘九郎丈だった時の扇子、そして当世 中村勘九郎丈の扇子が仲良く飾られています。
2代目の福井さんは生粋の神楽坂っ子。長らく神楽坂通り商店街の会長も引き受けていた、地域の顔といえる方。
ガラス戸の向こうから店内をのぞき込んで、福井さんの姿を見て店に入ってくる人が多く、注文はもちろん、世間話をしに立ち寄る方もいます。それこそ老若男女、近くに住む元芸者の方やお年寄りの方など、たくさんの人が気軽にふらりと訪れます。
そして、口々に
「ここのおせんべいはね、美味しいよ。」と教えてくれました。自然と人が集まってくる不思議なお店です。
ぶらり散歩で人気の神楽坂で、ニガい勘三郎せんべいをかじってみませんか。
取材・文:都野雅子
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【福屋】公式ホームページ