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糊こぼし椿 ― 東大寺のお水取りの時期に作られる、春を告げる和菓子

oriori編集部

3月1日から14日にかけて、奈良の東大寺では「修二会(しゅにえ)」と呼ばれる仏教法会が行われます。それは、国家や万民のために行われる行事で、天災や疫病、争乱などを取り除き、天下泰平、鎮護国家など、人々の幸福を願うものです。修二会は天平勝宝4(752)年に始められたもので、1270年以上にわたって一度も絶えることなく守り続けられている行事なのです。コロナ禍の最中も欠かすことなく、いやコロナ禍だからこそ万全の体制を取って行われてきたのです。

法会のクライマックスとなるのが3月12日の深夜に二月堂で行われる「お水取り」です。お水取りとは二月堂の近くにある井戸、「若狭井」から香水(こうずい)を汲んで秘仏の本尊十一面観音菩薩にお供えする儀式です。この観音さまが安置されている建物が二月堂と呼ばれるのは、旧暦の2月にこの行事が行われてきたことに由来します。

この仏事に先立つこと10日、3月2日に福井県・若狭小浜にある遠敷川(おにゅうがわ)では、若狭から東大寺に水を送る行事が行われます。これが「お水送り」です。「お水取り」は広く知られていますが、元になる「お水送り」との関係まで理解している人はそんなにはいないと思います。

「お水送り」とは、小浜の「若狭神宮寺」の「閼伽井(あかい)」で汲んだ水をさまざまな行によって清めたのちに、少し離れた「鵜の瀬」と呼ばれる河原から流す行事です。その水は10日後に地下水脈を通って東大寺の若狭井に届くといわれています。言い伝えによると若狭の鵜が水脈を作ったとされています。若狭から送られた水だから、「若狭井」なんですね。

さて話を修二会に戻しましょう。修二会の期間中、二月堂の須弥壇を飾るのが紅白の椿の造花です。モデルとなっているのは「良弁椿(ろうべんつばき)」。東大寺の開山堂の庭にある、赤い花びらに白い斑の入った椿です。東大寺の開祖、良弁僧正(689~773)の像が開山堂に祀られていることから、そう名付けられました。また、その様子が花びらに糊をこぼしたように見えることから、別名「糊こぼし」とも呼ばれています。良弁椿は遅咲きで、修二会の時期にはまだ花が開いていないため、紅白の和紙と黄色いタモの木で作った造花を供えるのです。

そして、奈良の和菓子屋さんでは、毎年2月頃から3月中旬までの「修二会」の時期にあわせて、この「良弁椿」の造花をかたどった和菓子をつくるのです。菓銘はお店によって、「良弁椿」だったり、「糊こぼし」だったりとさまざまです。花芯に黄身あんを使い、紅白の練り切りで花びらを作ります。柔らかく、口の中でほどけていく黄身あんは、まさに絶品。クリームのような口溶けです。

お水取りが終わるころ、実物の良弁椿の花が咲き始めます。残念ながら開山堂は非公開ですので、良弁椿の現物を間近で目にすることはできません。代わりに、この時期だけの特別なお菓子をぜひ味わってみてください。

文:oriori編集部