成増

【田中屋本店】江戸時代から続く、川越街道沿いの老舗。名物は2種類の「最中」

笹木理恵

1.宿場町に続く川越街道沿いに、茶屋として創業

池袋から川越方面へ向かう東武東上線で約10分。成増駅から徒歩3~4分の場所にある「田中屋本店」は、江戸末期の安政3(1856)年創業と、大変歴史のあるお店です。

もとは現在の場所よりもう少し坂を下った場所、八坂神社の目の前に店を構えており、川越街道の拡張にともない、現在の場所へ移転。店の入口に飾られた瓦が、昔の店舗の名残を今に伝えています。

現在の店主、田中宏信さんは7代目。八坂神社は旧川越街道から白子宿へ向かう起点となっていて、ここでお団子やお餅などをふるまうお茶屋を営んでいたのが「田中屋」のルーツ。その後、和菓子店での修業を経て本格的な和菓子を学んできた4代目が菓子の種類を増やし、現在のスタイルになったそうです。

宏信さんのモットーは、季節感を大事にした和菓子をつくること。秋は栗蒸し羊羹や芋羊羹、春は桜餅や柏餅など、日本の四季を感じられるお菓子を提供しています。加えて、修業時代に関東と関西、両方の製法を学べたことで、表現の幅も広がったそう。例えば、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)。関東式のやり方では、砂糖と粉を混ぜてから山芋を入れてこねるのに対し、関西式では、砂糖と山芋を混ぜてから粉を入れるため、硬さの微調整がしやすいのだといいます。

2.伝統の味と、現代風。2種類の最中が人気商品

「八坂最中」1個180円(税込)

人気商品は、北海道小豆100%の粒あんがぎっしり入った「八坂最中」(180円)。昔ながらの製法を受け継いだ最中は、しっかり甘くて黒いあんこが特徴。サクッと香ばしい最中種が、あんの風味を引き立ててくれます。

「田中屋本店」には、もう一つ、人気の最中があります。12年前から地元のおみやげとして愛されている「板橋 お伝え最中」(1個160円)です。

「板橋 お伝え最中」10個入り1,880円(税込)

板橋区の和菓子店(当時8店舗)の若旦那が集まり共同開発した商品で、神様をかたどった最中種に、抹茶、杏子、桜、白ごま、小倉の5種類のあんが包まれています。同封されているパンフレットに書かれているのは、板橋区の昔話。甘さを控えた上品な味わいで、ひと箱でいろいろな味を楽しみながら、地元の魅力を再発見できる楽しさがあります。

3.四季折々の和菓子を大切に、日常のお菓子をつくり続ける

「季節の上生菓子」1個240円(税込)

ショーケースでひときわ存在感を放っていたのが、常時3~4品を揃える上生菓子(240円)。取材時は花火、団扇、朝顔など夏らしいモチーフが並んでいました。お客様が来店するたびに楽しみがあるようにと毎月2~3品を入れ替えており、型を使わず全て手作業で仕上げるのもこだわりです。

「みたらし団子」3本240円(税込)

醤油が強めのみたらし団子(3本240円)は、日常のおやつにぴったり。銅板で焼き上げるどら焼き(180円)は、粉、砂糖、卵が同割の昔ながらのレシピでつくる素朴な味わいです。

自家製あんは、豆の味がしっかりと出るように、時間をかけて丁寧に火を入れるのがこだわり。煮ているときの音で、火が強いな、とか、もうそろそろ上がるな、と判断するそうです。

最近は、お子さんを連れた若い世代のお客さんも増えている同店。常連さんの好む昔ながらの味わいも大事にしながら、新しいお客さんに向けたアプローチにも力を入れていきたいと宏信さんは話してくれました。その時々でしか登場しない季節のお菓子に、和菓子ならではの自然の恵みを感じられるお店です。

取材・文:笹木理恵