川崎

【川崎大師 山門前 住吉】川崎大師名物の「久寿餅」を伝え続けて100余年。伝統の味を守りつつ新たな挑戦も

笹木理恵

江戸時代から食されているという「久寿餅(くずもち)」。独特の風味とむちむちとした食感が美味しいお菓子ですが、昨今は和菓子で唯一の発酵食品としても注目を集めています。 そんな「久寿餅」を名物とする川崎大師そばの老舗「川崎大師 山門前 住吉」では、伝統の味づくりを継承しつつ、新しい取り組みにも挑戦しています。

1.創業は、大正6年。参拝客にも人気の川崎大師名物

葛粉で作る「葛餅」とは異なり、発酵させた小麦粉を原料とする「久寿餅」。関東の名物として知られており、東京の亀戸天神や池上本門寺、神奈川の川崎大師、などが有名です。

川崎大師の門前に店を構える「川崎大師 山門前 住吉」は、大正6(1917)年創業。界隈には久寿餅を売る店が数店舗あり、それぞれに個性がありますが、「住吉」の久寿餅は口に含んだときの喉ごしがよく、クセのない味わいが評判だそう。テーマカラーの黄色い袋も名物で、初詣ともなると参道は黄色い袋を下げた参拝客でいっぱいになるそうです。

2.味の決め手は、「種かき」にあり! シンプルで奥深い、久寿餅づくり

久寿餅の歴史を紐解いてみると、誕生は江戸後期と伝えられています。川崎大師の久寿餅は、言い伝えによると天保年間の頃、近隣に住む久兵衛という者が考案したそう。雨に濡らしてしまった小麦粉を、やむなくこねて水に溶いて放置していたところ、翌年見てみると、偶然にも発酵してでんぷんが沈殿しているのを発見。これを蒸しあげて作った餅を当時の上人様へ献上したところいたく気に入られ、久兵衛の名前の一文字「久」に、「無病長寿」を祈念した「寿」を合わせて「久寿餅」と名付けられた、ということです。

「住吉」では、昔ながらの製法を代々の職人が受け継ぎながら、伝統を守り続けています。久寿餅の原料となるのは、13カ月以上発酵させた状態のでんぷん。このままでは独特のすっぱい臭いがあるので、水を加えて混ぜ、沈殿したでんぷんと、浮き上がってきた不純物や臭いを分離させます。

※画像提供/住吉

そして、久寿餅づくりの要所である「種かき」の作業。取り出したでんぷんに熱湯をかけて素早くかき混ぜ、でんぷんを糊化して生地を作ります。均一なとろみ加減に混ぜるのは熟練の技が必要で、久寿餅のコシのある食感を作る大事な作業。混ぜ方次第では、まったく食べられない代物になってしまうそうです。
出来上がった生地は蒸篭(せいろ)に入れて蒸し、食べやすく三角形にカット。現在は、カットから包装までを機械化していますが、数年前まではカットも手作業で行われていたというから驚きです。

※画像提供/住吉

さらに、久寿餅についている黒蜜ときな粉にもこだわりが。黒蜜は時代に合わせて配合を変えていますが、社内でもレシピを知る人はごくわずかなのだそうです。きな粉は粒子が細かく口どけがよいものを厳選しており、キレのある味わいの黒蜜とよく合います。

3.カフェでは、できたての久寿餅や、和洋折衷のサンデーも!

「住吉」店内にはカフェもあり、その日に製造した久寿餅をいただくことができます。カフェでいただく場合は、月替わりで風物詩をかたどった久寿餅が添えられており、季節感を感じられます。

※画像提供/住吉

さらに仲見世通りの並びには、姉妹店のカフェ「珈琲茶房 餅陣住吉」も運営。こちらは、千葉県の「マザー牧場」のソフトクリームとコラボした和洋折衷のスイーツが看板商品。 おすすめの「くずもちサンデー」は、濃厚なソフトクリームとコクのある黒蜜、むっちりとした久寿餅のコラボレーションが楽しめます。

4.オリジナルキャラクターの「くずもっちゃん」と、新商品「久寿餅 de 一升餅」

「住吉」では、種類は多くはありませんが「久寿餅」以外の和菓子も販売しています。小麦粉生地の「厄除けまんじゅう」(6個入750円~)は、一般的な薄皮饅頭とは異なり、やや生地が厚くもっちりとした食感が特徴。白はこしあん、茶色は程よい粒感がある潰しあんが中に包まれています。

伝統を後世にも伝えるため、「住吉」では若い職人の育成に力を入れながら、若い人にも久寿餅を食べてもらうためのPRにも意欲的に取り組んでいます。2021年10月に発売された「久寿餅 de 一升餅」は、1歳の祝い行事である一升餅を、久寿餅で作った商品。単品のほか、オリジナルキャラクターの「くずもっちゃん」のベビーリュックや、選び取りカードが付いたセットも。一生の記念になる1歳のお祝いを、縁のある寺やふるさとの伝統菓子で祝えるのはとても素敵だなと思います。

久寿餅の賞味期限は、販売日(製造日)を含む3日間ですが、通販でお取り寄せも可能です(2枚入800円~)。遠方でなかなか足を運べないという方も、ぜひ一度食べてみてくださいね。

取材・文:笹木理恵