新橋・有楽町

【御菓子司 新正堂】創業110年の老舗で、1日7000個売れる「切腹最中」。常識にとらわれない味づくりで大ヒット

笹木理恵

最中種がぱかっと開き、中からたっぷりのあんこが顔をのぞかせるユニークな見た目と、斬新なネーミングが印象的な「切腹最中」。忠臣蔵をモチーフに開発されたこの最中は、歴史好きに刺さるだけでなく、サラリーマンのお詫びの品としても話題を集め、1日7,000個も売れる大ヒット商品となっています。今回は、そんな「切腹最中」の誕生秘話と、「新正堂(しんしょうどう)」の隠れた人気商品をご紹介しましょう。

1.創業110周年。新橋のビジネスマンに愛される、老舗和菓子店。

新正堂は、大阪で修業した初代の渡邊新次郎氏が、大正元(1912)年に創業。関東大震災、太平洋戦争での空襲、そして環状2号線の整備により3度の移転を経て、現在は新橋4丁目に店を構えています。

ビジネスマンの多い土地柄もあって、店内には「切腹最中」をはじめとするギフトがずらり。コロナ以前は外国人観光客も多く、近年は歴史ファンや、SNSを見て来店する若い客層も増えているそう。

「切腹最中」の産みの親は、アイデアマンな3代目・渡邊仁久(わたなべよしひさ)さん。30代後半で3代目に就任すると、それを待っていたかのように2代目に病が見つかり、1年半後には帰らぬ人に。仁久さんは、なんとか売れる商品を作りたいと120もの新商品を開発しましたが、どれもヒットにはつながらなかったそうです。

「切腹最中」を開発するきっかけとなったのは、「日持ちする和菓子が欲しい」というお客さんの声。当時、新正堂の人気商品は豆大福。コシが強く旨味のある生地と、小豆の風味が生きたあんの味わいが、多くのお客さんに支持されていましたが、お土産になるような名物菓子がなかったのです。

2.「忠臣蔵」をモチーフに誕生! 周囲の反対を押し切って誕生した「切腹最中」

そこで仁久さんは、最中に着目。「せっかく作るなら、普通の最中じゃ面白くない」と、最中種は香ばしくパリッとして、お米の味が感じられる良質なものを厳選。さらにあんこも、素材の小豆から見直し、産地である北海道・十勝まで自ら赴く一方、職人たちと協議を重ねて現代風の味わいを模索していったと言います。

もともと忠臣蔵の大ファンだったという仁久さん。奇しくも移転前の「新正堂」の場所が、浅野内匠頭が切腹したという田村右京太夫の屋敷跡であるという偶然も重なり、「切腹最中」として売り出すことに。「“切腹”だなんて売れるわけがないと、周囲は大反対。2年半かけて説得して、なかば強引に発売にこぎつけました。当初は包材費もかけられなかったので、半紙をカットして熨斗(のし)のようにかけていました」。

香ばしく、サクッと歯ざわりのよい最中種に、ツヤのある粒あんがぎっしり。中心にはやわらかな求肥が入っているので、1個ぺろりと食べられてしまいます。食べると小豆の風味がとても濃厚なことに感動するのですが、なんと小豆を浸水せず、熱湯から炊くというから驚きです。セオリー無視のやり方に当時は職人からも反発があったといいますが、今では歴史ある和菓子店も一目置くおいしさ。合わせる砂糖も、上白糖、グラニュー糖、鬼ザラ糖、と時代に合わせて変えており、キレのあるさっぱりとした甘さが特徴です。

3.話題の新商品や、歴史ファンに刺さるギフトもオススメ!

あまりにも「切腹最中」が有名な同店ですが、他にもおすすめの和菓子がたくさんあります。オムレットのような形の「うふふどら焼き」は、4代目が考案した新商品。「しばみつレモン うふふ」は、港区産のハチミツで漬けたレモンがのっていて、爽やかな香り。「切腹最中」と同様、こちらも自慢のあんをたっぷりいただけます。

歴史好きには、忠臣蔵の四十七士それぞれを武者絵で描いた「義士ようかん」がおすすめ。味は、「本練り」「抹茶」「黒糖」「さくら」「塩」の5種類。裏面のQRコードを読み取ると、それぞれの人物紹介を見ることができます。箱詰めのほか1本270円でも購入できるので、プチギフトとしてもおすすめです。

今年で創業110周年を迎えた新正堂。今後は4代目が中心となり、最中種の自家製にも挑戦していくそう。「伝統は変えていく必要がある」という仁久さん。固定概念に捉われず、新しい発想でおいしさを追求することが、唯一無二の味づくりにつながることを教えてくれます。

取材・文:笹木理恵